新しい臨床研修制度では「臨床研修は、医師が医師としての人格を涵養し、将来専門とする分野に拘わらず、医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、一般的な診療において頻繁に関わる負傷または疾病に適切に対応できるよう、プライマリ・ケアの基本的な診療能(態度・技能・知識)を身につけること」を基本理念にしている。 医学部卒業後の臨床研修には古くからインターン制度があって、当時インターンには1年間医師免許がなかったことなどからこの制度は廃止された。昭和44年以後平成15年度まで行われていたスーパーローテート方式のように必要な科をそれぞれの研修医が選択し研修するという臨床研修が努力目標とされた。そのため大学医学部では即入局して専門科目だけを勉強するといった方向になってしまい、全国的にも卒業生の4分の3が大学病院での研修をしていた。プライマリ・ケアの必要性から平成16年度から臨床研修制度を義務化し、病院の選択にあたってはマッチングシステムも実際に開始された。 東海地方では従来から名古屋大学が中心になって名大方式というような2年研修を実際にやっており、大垣市民病院でもおおよそ新しい臨床研修制度に近い研修方式を行っていた。従って新しい研修制度にはそれほど困惑はなかったが、全国的には大学病院をはじめとして多くの病院で混乱も見られた。予想されたように初年度(平成16年度)から大学での臨床研修が敬遠され、約半数の人たちが一般病院で研修している。今後ともこの傾向はより顕著になっていく可能性が高い。今後はレジデント制度がより具体化し、将来的には医局制度自体の存続も危ぶまれる状況にある。 臨床研修をより充実したものとしていくには、研修医自身の医療に取り組む姿勢が何より大切で、研修カリキュラム、臨床研修病院と指導医の質、症例数の多寡などはそれに付随したものといえる。大垣市民病院は症例数ではほとんどすべての科目で十分すぎるほどであり、研修カリキュラムも本書のように素晴らしいものがある。指導医については関連大学の臨床教授から講師までを多数の医師が委嘱されており臨床研修病院としての環境は十分に備わっているので、研修医個々の努力次第によりその能力は際限なく高いものになると思われる。 臨床研修では医療の基本的な知識を身につけることはもちろん、患者・家族のニーズへの対応や、医療スタッフの業務を知るとともにチーム医療を実践することも重要である。医師間だけでなく、看護師、検査技師、事務職員とのコミュニケーション、病院という組織における協調性も学んで欲しい。 余人に負けない天性の資質と過去における努力が、大学医学部卒業という結果をもたらしました。社会が医師に望むものは、高い倫理観と豊かな人間性を有し、地域の指導的役割を果たすことであります。諸君にはこのような重大な使命がすでに課されており、更なる努力を重ね、より優れた医師となられることを祈っています。大垣市民病院 院長 金岡 祐次序
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