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泌尿器科

泌尿器科の紹介

 泌尿器科は主に尿路(腎臓・尿管・膀胱・尿道)と男性性器(精巣・精巣上体・精管・陰嚢・前立腺・精嚢・陰茎)の疾患を診療する科です。その他、副腎(腎臓の上にあり、ホルモンを分泌する臓器)の疾患や女性の骨盤内臓器脱(性器脱)などの疾患も対象となります(図1)。

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 疾患としては、腫瘍性疾患(副腎腫瘍・腎癌・腎盂尿管癌・膀胱癌・前立腺癌・精巣腫瘍など)、炎症性疾患(腎盂腎炎・膀胱炎・尿道炎・前立腺炎・精巣上体炎など)、膀胱および性機能障害(神経因性膀胱・勃起不全など)、尿路結石症(腎結石・尿管結石・膀胱結石など)、前立腺肥大症、尿路外傷、先天異常(停留精巣など)があります。これらの一般泌尿器科疾患の診療治療はもちろん、女性の尿失禁や骨盤内臓器脱などの診療治療も積極的に行っています。

基本方針

 当院の基本理念である「患者中心の医療・良質な医療の提供を行う」を実践し、病気の治療とQOL (quality of life)の両立を目指しています。日本泌尿器科学会をはじめ、各種学会や研修会に積極的に参加し、幅広く情報を集め、新しい知識や技術を実際の医療に役立てています。病気の治療だけでなく、院内外の他職種の方と協力して、治療後に早く社会復帰してもらえるように努力しています。

スタッフ紹介

宇野 雅博
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役職 部長
卒業大学名
医師免許取得年
富山医科薬科大
1991年
専門医資格(その他) 日本泌尿器学会(専門医・指導医)
日本透析医学会専門医
日本腎臓学会専門医
日本がん治療認定医
日本性感染症認定医
日本東洋医学会認定医
日本泌尿器科学会 / 日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 泌尿器腹腔鏡技術認定
日本内視鏡外科学会 泌尿器腹鏡技術認定
泌尿器ロボット支援手術プロクター認定(腎・前立腺)
専門分野
加藤 成一
役職 医長
卒業大学名
医師免許取得年
岐阜大学
2002年
専門医資格(その他) 日本泌尿器学会(専門医・指導医)
日本がん治療認定医
泌尿器腹腔鏡技術認定医
da vinci Si支援手術教育プログラム終了
専門分野 泌尿器がん・腹腔鏡・ロボット手術
竹内 康通
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役職 医員
卒業大学名
医師免許取得年
富山大学
2017年
専門医資格(その他) 日本泌尿器学会(専門医)
専門分野
山田 豊博
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役職 医員
卒業大学名
医師免許取得年
関西医科大学
2020年
専門医資格(その他)
専門分野

手術症例

診療実績

 [大垣市民病院 泌尿器科 手術件数]

主な泌尿器科手術 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
根治的腎摘除術(うち腹腔鏡手術) 20(18) 18(17) 16(13) 26(15) 19(16)
腎部分切除術(うちロボット支援手術) 24(24) 37(37) 20(20) 21(21) 16(15)
腎尿管全摘除術(うち腹腔鏡手術) 19(19) 14(14) 15(14) 14(14) 13(13)
単純腎摘除術 0 0 0 0 3
副腎摘除術(うち腹腔鏡手術) 7(7) 4(4) 4(4) 5(5) 5(5)
腎盂形成術(うち腹腔鏡手術) 0 1(1) 2(2) 0 1(1)
膀胱全摘除術(うちロボット支援手術) 9(3) 11 10 11 20
前立腺全摘除術(うちロボット支援手術) 71(71) 62(62) 65(65) 62(62) 55(55)
精巣悪性腫瘍手術 3 10 5 4 6
経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT) 189 169 189 195 195
経尿道的前立腺切除術(TUR-P)(うちHoLEP) 11(11) 23(22) 25(21) 40(25) 35(7)
経尿道的尿管結石破砕術(TUL) 89 123 68 84 74
経尿道的膀胱結石破砕術 31 24 30 30 44
経皮的腎結石破砕術(PNL) 19 24 11 8 3
経皮的腎瘻造設術 27 13 10 23 7
停留精巣固定術(うち腹腔鏡手術) 2(0) 7(0) 3(0) 5(0) 9(0)
骨盤臓器脱手術(TVM) 0 0 0 0 0
尿失禁手術(TVTまたはTOT) 0 0 0 0 0
前立腺放射線治療 98 78 31 33 29
体外衝撃波結石破砕術(ESWL延べ数) 207 198 244 207 213
前立腺生検 315 354 281 278 268
麻酔別手術件数 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
全身麻酔 181 183 166 155 156
腰椎麻酔 382 454 412 493 464
局所麻酔 56 23 26 42 37
硬膜外麻酔 382 399 418 344 366
合計 1001 1059 1022 1034 1023

学会発表

2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
国内学会発表(研究会含) 6 6 8 8 24
国際学会 0 0 0 0 0
論文数 1 1 3 3 5

前立腺肥大症

前立腺肥大症とは

 前立腺は男性の膀胱の下にある臓器で、精液の一部を作る働きがあります(図2)。

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 前立腺肥大症の頻度は50歳頃から増加します。組織学的な前立腺肥大は、30歳代から始まり、50歳で30%、年齢とともにその頻度は上昇し、80歳では約90%に見られますが、実際に症状があって治療を必要とする前立腺肥大症の頻度は全体の1/4程度といわれています。肥満、高血圧、高血糖および脂質異常症は前立腺肥大症と関連性が指摘されています。前立腺肥大症の原因はまだはっきりとは分かっていませんが、男性ホルモンが関与していると考えられています。前立腺肥大症では、排尿症状(排尿困難、尿の勢いの低下、尿の出始めるまでに時間がかかる等)、蓄尿症状(頻尿、尿失禁など)、排尿後症状(残尿感、排尿後の尿漏れ等)がみられます。前立腺肥大が尿の通過障害を引き起こす理由として、前立腺の収縮により尿道を圧迫したり、大きくなった前立腺が物理的に尿道を圧迫することにより生じると考えられています。

薬物治療

 最も代表的な薬はα1遮断薬です。α1遮断薬は前立腺平滑筋を緩め、尿道の圧迫を解除して、尿が通りやすくします。次に、5α還元酵素阻害薬は前立腺を小さくして前立腺肥大による尿道の物理的な圧迫を軽減します。前立腺の肥大には男性ホルモンが関与しており、男性ホルモンの作用を抑えることによって前立腺が縮小します。さらにPDE5阻害薬は尿道や前立腺の平滑筋細胞においてホスホジエステラーゼ5(PDE5)を阻害することにより、下部尿路組織における血流及び酸素供給が増加し、前立腺肥大症に伴う排尿障害の症状が緩和されます。その他には植物製剤や漢方薬などがあります。

手術療法

 薬物治療を行っても、症状の改善が得られない場合や、血尿、尿路感染、尿閉(尿が膀胱から出せない)を繰り返す場合、あるいは膀胱結石や腎機能障害が発生した場合には手術が必要になることがあります。代表的な術式は経尿道的前立腺切除術(TUR-P: Transurethral Resection of Prostate)です(図3)。これは尿道から内視鏡を挿入し、内視鏡の先端に装着したループ状の電気メスで肥大した前立腺を切除する方法です。また、経尿道的前立腺レーザー核出術(HoLEP:Holmium Laser Enucleation of the Prostate)は内視鏡を尿道から前立腺に通し、 レーザーファイバーを用いてレーザー光を照射し、みかんのような構造になっている前立腺の実の部分(内腺)を皮の部分(外腺)からくり抜くように切除(核出)します。HoLEPは大きな前立腺肥大であっても、出血が少なく、手術が安全に行えます。これらの手術を当院では年間数十例程度施行しており、入院期間は通常約1週間程度です。

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過活動膀胱

過活動膀胱とは

 過活動膀胱とは、「尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、通常は頻尿と夜間頻尿を伴うものである」と定義されています。「尿意切迫感」とは、急に起こる、抑えられないような強い尿意で、我慢することが困難なもの」です。過活動膀胱の頻度は加齢とともに増加するといわれています。日本の成人における過活動膀胱症状を呈する頻度は12%であり、およそ8人に1人がこの症状を有することになります。

原因

 脳や脊髄の病気など、神経の異常によるもの(神経因性)と、加齢や骨盤底筋脆弱などが原因のもの(非神経因性)があります。膀胱炎、膀胱癌、膀胱結石などの局所的な疾患がもとで生ずる尿意切迫感は、過活動膀胱ではありません。

診断

 過活動膀胱の診断は、以下の質問票で行います(図4)。質問3の尿意切迫感スコアが2点以上、かつ合計点数が3点以上の場合を過活動膀胱と診断します。ただし、たとえこの質問票で過活動膀胱と診断されても、診察・尿検査・超音波検査などで炎症や癌などの異常がある場合には過活動膀胱ではありません。自己判断は禁物ですので、過活動膀胱かなと思ったら必ず医療機関を受診しましょう。

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治療

 内服治療:抗コリン薬やβ3受容体刺激薬という種類の内服薬で治療します(図5)。その他に膀胱訓練、骨盤底筋体操などの行動療法で良くなる方もいます。男性の過活動膀胱は、前立腺肥大症を伴っていることがあるため、前立腺肥大症に対する治療を同時に行います。

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尿路・性器癌の治療方針

腎癌

 尿を生成する腎実質から発生する悪性腫瘍です。罹患率は10万人当たり男8.2人、女3.7人 (2002年の統計)で男性に多く、好発年齢は50~60歳代です。以前は肉眼的血尿や背部痛、腹部腫瘤で見つかることが多かった疾患ですが、最近では画像検査の進歩により、超音波検査やCTで偶然発見されるケースが増えています。腎癌発症の危険因子として、肥満、高血圧、喫煙などが挙げられます。

 (治療)腎癌の治療は外科的切除が基本です。以前は開腹手術が中心でしたが、早期の腎癌に対しては腹腔鏡手術を行うようになりました。また腫瘍が小さく、腎から突出した腫瘍に対しては開腹もしくは腹腔鏡による部分切除術を施行し、少しでも腎機能を温存できるように心がけています。術後に再発した場合や、原発巣の切除が困難な場合は、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬による治療やサイトカイン療法などを行っています。

腎盂尿管癌

 腎盂尿管癌は比較的稀な疾患で、膀胱癌と比較すると発生頻度は 約1/10です。男女比は2~4:1とやや男性に多く、50~70歳代が好発年齢です。診断時に約10~20%はすでに転移しているといわれています。喫煙との関連性が指摘されている疾患です。(治療)手術可能な症例については積極的に腎尿管全摘出術を行います。早期癌の場合は腹腔鏡手術を併用しています。進行癌で手術が困難な症例に対しては化学療法や放射線療法などを併用した集学的治療を行っています。

膀胱癌

 膀胱癌は,膀胱の尿路上皮より発生する悪性腫瘍です。罹患率は10万人当たり7.6人(2002年の統計)で、男女比は13.5:2.9 と男性に多く、主な症状は、血尿(無症候性肉眼的血尿、顕微鏡的血尿)、膀胱刺激症状(頻尿、排尿時痛、残尿感等)です。特に無症候性肉眼的血尿は,最も頻度の高い症状です。腎盂尿管癌と同様に喫煙との関連性が指摘されています。職業性発癌物質(芳香族アミン類)への暴露、膀胱内の慢性炎症なども原因とされています。

 (治療)表在性膀胱癌(Ta、T1:腫瘍は粘膜下結合組織まで浸潤)に対しては経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を行います。術後、補助治療として抗癌剤やBCGを膀胱内に定期的に注入する治療を行う場合があります 。最近ではT1症例に対してsecond TURを行い、残存腫瘍の有無などを確認し、その後の治療方針を決定するようにしています。浸潤性膀胱癌(T2:腫瘍が筋層に浸潤している)にて対しては、基本的には膀胱全摘出術を行いますが、高齢者や合併症の多い方などには、膀胱部分切除術を行うことがあります。膀胱全摘除術に伴う尿路変更には(1)回腸導管 (2)代用膀胱 (3)尿管皮膚瘻、があります。どの尿路変更にするかは、年齢や合併症の有無、患者さん自身の希望などを総合的に判断して、選択しています。進行癌(T3、T4や転移を有する)で手術困難な場合は、化学療法や放射線療法を併用して治療を行っています。膀胱上皮内癌(CIS)ではBCG膀胱注入療法が第一選択です。効果がなければ膀胱全摘出術も考慮します。

精巣癌

 精巣にある細胞から発生する腫瘍です。罹患率は10万人に1人程度とされ、比較的稀な疾患です。好発年齢は20歳代後半から30歳代で、若年者に多い腫瘍です。20歳代から30歳代の男性では、最も多い固形腫瘍(白血病などの血液腫瘍以外の腫瘍)とされています。家族歴(親族に精巣腫瘍に罹った人がいる場合)や停留精巣(精巣が陰嚢内まで下降しない疾患)などが危険因子です。また、男性不妊症の方は精巣腫瘍のリスクが上昇するとされています。精巣腫瘍の主な症状は、片側の精巣の腫れや硬さの変化です。しかし殆どの場合、痛みや発熱がないため、進行して見つかることもしばしばあります。

 (治療)高位精巣摘出術を行い、組織型を確定します。それと同時にCTなどで転移の有無を確認し、治療方針を決定します。

セミノーマの場合

 Ⅰ期→経過観察。場合によっては放射線治療を追加します。

 ⅡA期→放射線療法もしくは化学療法

 ⅡB、Ⅲ期→化学療法

非セミノーマの場合

 Ⅰ期→経過観察。抗がん剤治療を追加する場合もあります。

 Ⅱ、Ⅲ期→化学療法

前立腺癌

 前立腺は男性だけにあり、精液の一部をつくる臓器です。前立腺から発生した癌が前立腺癌です。わが国の前立腺癌による死亡数は年間約1.1万人(2012年統計)で、男性癌死亡全体の5%を占めます。前立腺癌の罹患数約6.5万人(2010年統計)で、男性癌罹患全体では胃癌、肺癌、大腸癌に次いで第4位です。今後はさらに増え、2020年には肺癌に次いで第2位になる見込みです。罹患率は65歳前後から高くなります。罹患率は1975年以降増加傾向ですが、その理由の1つは、前立腺特異抗原(PSA)による診断方法が普及したためと考えられます。早期の前立腺癌では特有の自覚症状がみられないため、泌尿器科の受診が遅れるという問題がありました。しかし、PSA検査によって、早期癌が発見されるようになりました。当院においても年間350~400件の前立腺生検を行っていますが、そのうち約1/3の方に癌が見つかっています。早期癌は手術や放射線治療で根治することが期待できます。食事や栄養素に関しても、さまざまな研究がなされています。前立腺癌との関係が明確になっているものはまだありませんが、危険因子として、乳製品、カルシウム、肉、脂肪など、予防要因としては大豆、リコピン、セレン、ビタミンE、魚、コーヒー、野菜などが候補に挙げられています。不明の点も多く、まだ結論には至ってはいませんが、今後、さらに研究が進んでいくことが期待されます。喫煙や運動についても、関連があるかどうか研究中のようです。

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 前立腺癌の治療は、①手術療法、②放射線治療、③内分泌治療(ホルモン治療)、④抗癌剤治療、⑤PSA監視療法、が主なものです。どの治療を選択するかは、病期(癌の進行度合い)、年齢、合併症の有無などを総合的に考慮し、最終的には患者さんとよく相談した上で決定しています。

  1. 手術療法:限局癌(早期癌)が対象。場合によっては局所進行癌に対してもホルモン治療を併用して手術を行うこともあります。合併症の有無などにもよるが、概ね平均余命10年以上の年齢を対象としています。最近ではロボット支援手術が普及してきています。当院でも2014年5月からロボット支援下前立腺全摘除術を行っています(図7)。ロボット手術の詳細についてはロボット支援手術のホームページをご覧ください。スライド7
  2. 放射線治療:2010年から当院に放射線治療を行うNovalisが導入され、限局癌を対象に治療を行っています(図8)。従来の外照射に比べより前立腺により正確に照射出来るようになり、周囲に臓器(直腸や膀胱)などへのダメージが減り、前立腺に十分な線量が照射出来るようになりました。低リスク、中リスク、高リスクの3つに分類し、それぞれ74、76、78Gyの照射に加え、治療効果をさらに高める目的で半年から3年間のホルモン治療を併用しています。年間30~40人の方に治療を行っています。その他に前立腺の中に直接放射性同位元素を埋め込む小線源療法(ブラキセラピー)や、粒子線治療(重粒子線、陽子線)等を希望される方に対しては、施行可能な施設に紹介し、治療の連携を図っています。

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  1. 内分泌治療(ホルモン治療):精巣で男性ホルモンが分泌されるのを抑制する去勢療法と、男性ホルモンが前立腺に取り込まれるのを抑制する抗アンドロゲン療法があります。それぞれの単独療法、あるいは併用療法を行います。去勢療法は、外科的に両側精巣を摘出する方法と、LHRHアゴニストもしくはLHRHアンタゴニストという注射を定期的に投与する方法の2通りがあります。主に進行癌で手術療法や放射線療法での根治的治療が望めない場合、前立腺全摘除術後もしくは放射線治療後に再発した場合、高齢の方などに対して行います。
  2. 抗癌剤治療:最初から行われる治療ではありませんが、内分泌治療の効果がなくなった場合(去勢抵抗性前立腺癌)、抗癌剤を周期的に投与します。今後も前立腺癌に対する新規抗癌剤の登場が予想されますが、積極的に取り入れていく方針です。
  3. PSA監視療法:早期癌の中でも悪性度が低い場合に行うことがあります(グリソンスコア6以下、PSA 10ng/ml以下、臨床病期T2以下等が主な対象)。定期的なPSA採血と前立腺生検を行い、病状の進行が疑われた場合には速やかに治療開始を検討します。過剰治療にならない利点はありますが、実際に手術すると20~50%が進行癌であったとの報告もあります。前立腺癌治療の選択肢になりうると考えられますが、まだ確立された方法とは言い難い面もあり、現時点で当院でこの治療は行っておりません。

腹腔鏡手術・ロボット手術

 近年、患者さんの体への負担が少ない手術方法や治療法が積極的に取り入れられるようになっています。泌尿器科の分野では、従来は開腹手術で行っていた腎臓や副腎、前立腺の摘出手術が腹腔鏡手術で行われるようになってきました。このような状況の中、当科でも2011年6月より腹腔鏡手術を開始し、副腎腫瘍、腎腫瘍、腎盂・尿管腫瘍などに対し積極的に腹腔鏡手術に取り組んでおります(図10)。2017年末までに約350件の腹腔鏡手術を行ってきました。また、前立腺癌に対しては2014年5月より手術支援ロボットのdaVinci Si(ダヴィンチSi)を用いたロボット支援腹腔鏡下前立腺摘除術を開始し、'からだにやさしい手術をより多くの患者さんに!!'をモットーに、そのすそ野を広げております。

スライド10

スライド11

 当院の特徴としては、県下でも有数の症例数があり多くの手術経験を通し、患者さんそれぞれに異なる病状やさまざまなトラブルにも対応できる力を身につけてきたこと、腫瘍や癌などの手術以外にも腎盂尿管移行部狭窄症に対する腎盂形成術などの良性疾患にも腹腔鏡手術を積極的に行っていること、早期腎癌に対する腎部分切除術などの腹腔鏡手術の中でも比較的難易度の高いなど手術にも積極的にチャレンジしていることが挙げられます。一方、腹腔鏡手術は技術の習得が難しく、また、習得までに時間がかかる手術方法であり、手術チームとして習熟度を高めるために、手術中のディスカッションやレクチャーに加え、週に1度、ビデオカンファレンスを開催し知識や技術の向上と、認識の共有化を図っています。またロボット手術は腹腔鏡手術の発展形であり、術者は鉗子の代わりにロボットを操作し腹腔鏡手術を行うものです。骨盤内の狭いスーペースでも精密で確実な手術が可能となり、出血量の軽減、機能温存の向上が期待できます。

ロボット手術の詳細についてはロボット手術のホームページをご覧ください。
手術方法の詳細については内視鏡手術センターのホームページをご覧ください。

その他泌尿器疾患

1.尿路結石症

 上部尿路(腎・尿管)結石が95%以上を占めており、残りが下部尿路(膀胱・尿道)結石になります。男女比は約2.5:1と男性が多いです。上部尿路結石症の年間罹患率は、男性では118人(1995年)、女性では46人(同)。生涯罹患率(一生のうちにその疾患になる確率)は男性で9.0%(同)、女性で3.8%(同)。つまり、男性11人に1人、女性26人に1人が一生の間に一度は尿路結石症に罹患することになります。主な症状は血尿と痛み(仙痛発作)です。結石の原因はまだはっきりとはわかっていないのが現状ですが、飲水指導(食事以外に1日2,000ml 以上の飲水を心がける。ただし心不全や腎臓病などのある方は注意が必要です)。その他に下記の食事に注意することにより、発生を予防する可能性があります(尿路結石ガイドラインより)。

  1. 動物性蛋白質の過剰摂取制限(1.0g/kg/日、動物蛋白比50%)
  2. 一定量のカルシウム摂取のすすめ(600~800mg/日)
  3. 蓚酸(しゅうさん)の過剰摂取の制限
  4. 塩分の過剰摂取の制限(10g/日以下)
  5. 炭水化物の摂取(穀物摂取のすすめ、砂糖の過剰摂取の制限)
  6. 脂肪の過剰摂取の制限
  7. クエン酸の適量摂取のすすめ

 バランスのとれた食事を心がけるように指導することが基本です。

 (治療)痛みを伴う尿路結石の多くは自然排石されますが、尿路閉塞が高度な症例や、自然排石が困難な大きな結石の場合には、手術治療が必要となります。当院では日帰りで体外衝撃波結石破砕術(ESWL)を行っています。2010年からドルニエ社製のDELTAⅡという新機種が導入され、年間350~400件の治療を行っています(図12)。ESWLでは砕石困難な症例に対しては経尿道的尿管結石破砕術(TUL)や経皮的腎結石破砕術(PNL)を行っております。特に上部尿路の結石に対しては軟性尿管鏡とレーザーを用いて結石を破砕する(f-TUL)も行っています(図13、14)。尿路結石症は感染症を併発すると、稀に敗血症に至ることもあるため、注意が必要です。

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2.骨盤内性器脱・腹圧性尿失禁

 膣から膀胱・子宮などが下垂し、膣外に脱出するものが骨盤内性器脱です(図15)。咳・くしゃみ・運動などで腹圧がかかった時に尿漏れがおこるものが腹圧性尿失禁です。いずれも経産婦婦に多い疾患で、加齢・出産・肥満などが原因で骨盤底筋がゆるむことが原因といわれています。軽症の尿失禁には骨盤底筋トレーニングが有効です。重症の腹圧性尿失禁や骨盤内性器脱には手術治療をおこなっています。人工テープや人工布を用いて補強する手術(TVT・TVM手術)をおこなっています(図16)。経膣操作による手術で入院期間は5日間程度です。

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PSA(前立腺特異抗原)

 PSAは前立腺癌の早期診断に有効な血液検査です。PSAは前立腺から出される蛋白質ですが、PSAが4.0ng/ml以上の場合、前立腺癌が見つかる可能性が高くなってきます。PSA検診の普及により、排尿障害などの自覚症状が無く、PSA異常で受診される患者さんが増加しています。PSA検診によって前立腺癌による死亡率が下がるかどうかは、まだ議論のあるところです。しかし欧州で行われた大規模なERSPC試験(Screening and prostate-cancer mortaity in randomized European study)では、9年間の追跡で、検診群の方が非検診群と比べて、相対リスクが20%減少したと報告されました。2014年には13年間の追跡でもほぼ同様の結果が得られたと追加報告がなされました。

 日本泌尿器科学会は、住民検診では一般的に50歳以上の方、人間ドックにおいて前立腺癌検診の受診機会がある方は、可能であれば40歳代からの検診受診を推奨しています。

前立腺生検

 当院では外来検査として、日帰り検査として行なっています。麻酔は仙骨硬膜外ブロックで、経直腸エコーガイド下に8箇所針生検します。年間約400件の生検を行っており、毎年100例以上の前立腺癌が見つかっています。再生検が必要な場合、入院において腰椎麻酔下に経会陰式前立腺生検も行っています。

前立腺癌地域連携パス

 がん患者がその居住する地域にかかわらず等しくそのがんの状態に応じた適切ながん医療を受けることができるよう、2007年にがん対策推進基本計画が策定されました。当院は地域がん診療連携拠点病院が定められ、岐阜県西濃地区では当院が中心になり、2011年1月から前立腺癌の地域連携パスの運用を開始しています。前立腺癌で手術を受けられ経過の良い方や、内分泌治療を受けられておりPSAが低値の方が対象となります。かかりつけ医を決めてもらい、当院と連携しながら診療を行っております。2015年12月末までに110例近くの登録がありました。また2014年から前立腺癌早期診断パスの導入が始まりました。このパスは前立腺癌を疑い生検をしても癌が見つからなかった場合が主な対象となります。かかりつけ医で定期的なPSA採血を行ってもらい、上昇するようであれば速やかに当院で再検査を検討し、前立腺癌の早期発見に努めることが目的です。2015年12月末までに約70例が登録されています。