五大がん - 肝がん
1.肝癌とは
肝癌には原発性肝癌と転移性肝癌があり、2003年の統計では原発性肝癌は癌による死亡の原因として、男性では第3位(12.3%)、女性では第4位(8.7%)でした。肝癌といえば一般的には原発性肝癌をさし、95%が肝細胞癌(他は肝内胆管癌)なので、以下は肝細胞癌について述べます。
肝癌の成因は、わが国においては90%以上がB型肝炎かC型肝炎です。これらの疾患はそれぞれB型・C型肝炎ウイルスに感染することにより生じます。慢性肝炎の進行には個人差がありますが、感染後10から30年の内に肝癌を発生することが多いようです。特に近年はC型肝炎による肝癌が81%を占めています(B型は13%にすぎない)。慢性肝炎は進行すると肝硬変となり、肝硬変の状態に近づくほど肝癌発生のリスクが高くなります。しかしまだ肝硬変にはほど遠い慢性肝炎の状態であっても肝癌が発生することがあり油断はなりません。特にB型肝炎では、肝臓の数値が正常であり一見するとまったく正常な肝臓である人でも(B型肝炎ウイルスに感染しているだけで)突然肝癌ができることがあります。こういう場合は発見時期が遅れることが往々にしてあり、いずれにしても肝炎ウイルスに感染している人は定期的に腹部超音波などの検査をうけることが大切です。
2.症状
自覚症状としては右上腹部のしこり、痛み、発熱、倦怠感(肝機能障害)、黄疸等がありますが、肝癌をはじめとする肝腫瘍は早期のうちは全く無症状であり、自覚症状が出るころには相当進行していることがほとんどです。現在では消化器科で慢性肝炎、肝硬変の経過中に超音波検査などで見つかることが多く、この場合は早期発見がなされています。したがって肝炎ウイルスを保有する場合、定期的な検診は不可欠です。また肝炎ウイルスは通常の生活で感染することはありませんが、肝炎ウイルス保有者と血液の接触があった場合には血液検査で感染の有無をチェックし、自分が肝炎ウイルスに感染していないか確認する必要があります。
3.診断
当院では、血液検査でわかる腫瘍マーカー(AFP、 AFP-L3、 PIVKA II)、超音波検査(エコー)、CTあるいはMRIなどが使われており、精密検査としては入院して行う血管造影下CT(Angio-CT)があります。基本的には超音波で定期的に検査をし、もし肝臓に腫瘍が疑われれば外来でCTやMRI、造影超音波検査を行って調べます。これで肝癌の可能性が高い場合には入院していただき、血管造影下CT(Angio-CT)をおこなって診断します。血管造影は鼠径部(足のつけ根)からカテーテルを動脈内に挿入し肝動脈という肝臓へ血液を送っている動脈にまで先端を挿入してレントゲンやCTを撮ります。この検査によりほとんどの肝腫瘍は診断が可能ですが、どうしても確定診断がつかない場合は超音波で見ながら細い針を用いて腫瘍を刺し(生検)、とれて来た細胞を顕微鏡で確認(病理診断)して最終診断をつけます。
4.病期(ステージ)
肝癌の進行度(病期、stage)は、IからIV-Bまで5段階に分かれています。Iが早期、IIからIV-Aへと進行が進み、IV-Bは遠隔転移を認める末期と考えられます。しかし肝癌では先に述べたようにもともと慢性肝炎や肝硬変を合併していることが多く、癌の進行度とは別に、肝機能の評価が重要です。肝機能の評価には「臨床病期」という慢性肝障害の程度を評価する指標があります。臨床病期はIからIIIと3段階あり、腹水・黄疸・肝機能検査データによって規定されます。Iが慢性肝炎から早期の肝硬変程度でありIIからIIIへと肝硬変が進行していきます。すなわちたとえ肝癌が小さくて早期であっても、肝硬変が重症で腹水や黄疸のでている場合には治療法も制限され、予後(その後の生存)もあまり期待できない場合もあるわけです。そのような場合にはたとえ肝癌があっても癌の治療より肝硬変の治療が優先されます。
5.治療(以下は第16回全国原発性肝癌追跡調査報告2000~2001を参考にしています)
肝細胞癌の治療法としては、手術(肝切除、肝移植)31.3%、エタノール注入・ラジオ波焼灼・マイクロウェーブ凝固などの局所療法26.8%、肝動脈塞栓療法36.4%でした。これらは臨床病期、癌の病期、患者の希望、病院の治療選択基準によってかわるもので、絶対的な治療法は存在せず、かつ各治療法を単純に比べるのも意味がないと思われます。現在日本で一般的に考えられている治療法の選択は、まず臨床病期がIあるいはIIであり、癌の進行度がI、II、IIIまでなら手術あるいは局所治療が行われ、それ以上では肝動脈塞栓療法が行われることが多いようです。放射線治療、化学療法もまれに進行した肝癌に対して行われますが効果は少ないようです。また肝動脈にだけ抗がん剤が流れるように肝動脈にカテーテルを留置してここから抗がん剤を注入して効果を期待する治療法(リザーバー療法)も一部の施設では行われています。
肝癌の再発率は手術や局所療法では比較的低いとされています。しかし肝癌では一般的な癌の再発とは別に、肝炎・肝硬変を母地とした新生再発(新たに肝癌が発生すること)が多いのが問題です。一般的な癌の再発とは、最初の癌の治療後にも残存していた目に見えない癌細胞が徐々に成長して再び腫瘍を形成することを意味します。一方、肝癌では、最初の治療でたとえ目に見えない癌細胞まですべて消滅していたとしても、肝臓自体が慢性肝炎や肝硬変であること、つまり肝癌ができやすい状態であることには変わりがないため、全く新しく肝癌が発生すること(新生再発)がまれならずあるのです。このように肝癌の場合には、肝硬変による肝機能の低下(治療にともなっても肝機能はさらに低下します)や完治後の新生再発という特殊な状況があるため、一つの治療法にこだわらず各種治療法を組み合わせて行うことが予後の延長につながると考えられています。
施行レジメン一覧
番号 | レジメン番号 | レジメン名 |
---|---|---|
1 | 02100020_2 | 5-FU + Peg - IFN (500/90) 肝動注 |
2 | 02100030_2 | 5-FU + Peg - IFN (24hr) (500/90) 肝動注 |
3 | 02100040_6 | 5-FU + CDDP (170/7) 肝動注 |
4 | 02100060_2 | ≪FP≫ 5-FU + CDDP (250/50)肝動注 |
5 | 02100090_1 | ≪New FP≫ 5-FU + {CDDP+リピオドール} (250/50)肝動注 |
6 | 02100160_1 | サイラムザ (8) |
臨床試験または治験
番号 | レジメン番号 | レジメン名 |
---|---|---|
1 | 02100070_2 | ONO-4538[治験]ニボルマブ(240) |
2 | 02100080_1 | KEYNOTE-240[治験]MK-3475 (200) |
3 | 02100100_2 | HIMALAYA[治験]デュルバルマブ+トレメリムマブ(1500/75)(1-4コース目) |
4 | 02100110_1 | HIMALAYA[治験]デュルバルマブ+トレメリムマブ(1500/75)(5コース目以降) |
5 | 02100120_2 | HIMALAYA[治験]デュルバルマブ+トレメリムマブ(1500/300)(1コース目) |
6 | 02100130_1 | HIMALAYA[治験]デュルバルマブ+トレメリムマブ(1500/300)(2コース目以降) |
7 | 02100140_1 | HIMALAYA[治験]デュルバルマブ単剤療法(1500) |
8 | 02100150_2 | BGB-A317-301[治験] BGB-A317 (200) |
6.進行度別治療法
いわゆる5年生存率は肝切除で54.6%、局所療法で43.4%、肝動脈塞栓療法で23.5%でした。対象症例の背景(臨床病期、癌の病期)が異なるので単純な比較はできません。実際、肝切除は臨床病期Iの患者に多く行われています。肝癌では癌による死亡が57.2%に対して、肝不全などの肝機能障害による死亡(直接肝癌によるのではない死亡)が26.2%と多く、また肝硬変の症状(食道静脈瘤破裂など)による死亡も7.6%を占めます。予後の改善のためには手術治療をはじめとした各種治療法の向上はもちろん、もともとの原因である肝炎ウイルスに対する抗ウイルス治療(各種インターフェロン、リバビリン、ラミブジン等)が肝癌の発生、肝硬変による肝不全を防ぐ意味で重要な意味をもつ時代になってきています。