五大がん - 胃がん
1.胃癌とは
胃は上腹部にある袋のような臓器で、食べ物を化学的、機械的に消化する働きを担っています。飲み込んだ食物は食道という細長い筒のような構造を通ったのち、胃に注ぎ込みます。胃の内側は粘膜で覆われていますが、これは皮膚と同じようにいつも新しい細胞と入れ替えられています。胃癌はこの粘膜を発生母地としています。通常は不具合を持った細胞が作られても免疫細胞の働きにより除去され、何事もなかったように時が過ぎてゆきます。その中で、この精巧な調節機構を免れた異常細胞が浸潤や転移といった強い増殖能力を持つようになり、胃癌が発生します。発癌には慢性胃炎、ピロリ菌、たばこ、高塩分食などに加え、遺伝的素因が関与していると考えられています。
日本では毎年で5万人弱の方が胃癌で亡くなっています。その数は年々減少傾向にありますが、それでも癌種別死因1位の肺癌に次ぎ頻度の高い癌であることは変わりません。一方、早期胃癌の治療成績は極めて良好です。早期胃癌はほとんど症状がありませんので、年に一回はバリウム検査や内視鏡検査による検診を受けることをお勧めします。
2.症状
胃癌の多くは無症状ですが、大きな潰瘍を形成すると痛みを生じたり、癌が大きくなったり、場所が胃の出入り口に近いと食べ物の通過に障害を生じて、食欲がなくなったり吐き気を催すなどの症状が現れる場合があります。癌からの出血で便が黒くなったり、貧血になって顔が青ざめたりする場合もあります。これらは癌だけに特徴的な症状ではありませんので、体調の悪さが続く場合には医療機関を受診なさったほうがよいでしょう。
3.診断
胃の検査法には消化管造影検査いわゆるバリウム検査と内視鏡検査があります。バリウム検査では、バリウムを溶いた造影剤を飲んでX線写真を撮影し胃の粘膜表面を描き出すことで、病変の有無を判定します。内視鏡検査では、自在に屈曲する縄のように細長い検査用カメラを口から挿入し、胃の中をテレビモニターに映し出します。造影検査では粘膜面の凹凸しかわかりませんが、内視鏡では色調の変化まで細かく観察することができ、より平坦な病変でもとらえることが可能です。さらに癌が疑われる場合には生検といって組織の一部をつまみ出して顕微鏡検査を行うことができます。
生検された人がみな癌であるわけではありません。通常結果がわかるのに1週間ほどかかりますので、結果は後日お伝えしています。お一人で結果を聞くのが心配な方はご家族などと一緒に来られるとよいでしょう。
癌であることが判明すると病変の広がりを調べる必要があります。癌の進行の程度、すなわち病期は胃の壁に対して癌がどこまで深くひろがっているか、リンパ節に転移があるかどうか、肝臓などの離れた臓器に転移があるかどうか、により6段階に分類されています。これらを判定するのに、造影検査、内視鏡検査に加えて腹部超音波検査、胸部X線撮影検査などを行います。胃の壁のどの深さまで進んでいるかを精密に調べる必要のあるときには超音波内視鏡検査を行う場合もあります。これは内視鏡の先端に超音波の探索子(プローブ)のついた機械を用いる検査です。また、CT検査といってX線とコンピュータを用いて体の内部の断面または立体像を描き出す検査を行う場合もあります。当院では高速で検査できる最新の機器を多数備えています。
4.治療
通常は消化器科に通院または入院して、癌であることと、病期が診断されます。担当医からどんな治療の選択肢があるかをよくお聞きになって下さい。完治を目指すには手術が一番ですが、病期によっては抗癌剤治療を受けた方がよい場合もあります。また早期癌の一部では内視鏡切除で根治できる場合もあります。
開腹手術を受ける場合には外科を受診します。病期や癌の場所により手術法は決まっているので、あまり時間をかけて考える必要がないと思われたらすぐに手術日をお決めになってもよいでしょう。癌が数週間で進んで手遅れになることはありませんが、当院では医者の都合で手術を先延ばしにしないように努力しております。たいてい、受診された翌週には手術の受けることができます。当院では最初の説明をした医師が執刀するとは限りませんが、約10名の医師の中から主治医を選び、外科部長または3人の医長が責任者となって手術に臨んでおり、だれが担当しても同じ結果になるように技術の均一化に努めております。
1)内視鏡下切除術
早期胃癌のうち、リンパ節転移の可能性がほとんどないものは、内視鏡的な局所切除の対象となります。内視鏡的切除の方法としては内視鏡的粘膜切除法(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離法(ESD)があります。当院では局所再発の防止と正確な病理診断を行うため、ITナイフを用いたESDを積極的に施行しています。
ESDの方法は内視鏡下で、病巣粘膜の下に生理食塩水などを注入して病変の粘膜を浮き上がらせ、ITナイフなど内視鏡で扱える器具を用いて粘膜を焼き切る方法です。開腹もせず、静脈麻酔にて、30分から2時間で終了できます。偶発症としては、出血と穿孔がおこる場合があります。
内視鏡的切除は治療後も胃が残るため開腹胃切除でみられる後遺症がないことも利点です。
2)開腹手術
胃癌の手術は病変を残さず切除するとともに、周辺のリンパ節を併せて取り除きます。癌を包囲して取り出すのです。
切除の方法は癌ができた場所によって大きくわけて三通りです。多くの場合、癌が胃の出口、すなわち幽門の近くにできるので、出口側の約3分の2を切除する方法をとります。癌が胃の入口、すなわち噴門に近い場合、あるいは全体に広く及ぶ場合には胃をすべて切除する必要が生じます。噴門に近い早期癌には入口側の約2分の1を切除する方法もあります。これらの方法は癌の根治性と手術後の消化・吸収の働きや合併症の防止という観点で定まったものですから、ご希望により胃を残したり、残る胃を大きくしてみたりということはできません。
胃の手術では切除したあとに残った胃や胃の上流にあたる食道と小腸とをつなぎ合わせます。この方法は一見複雑に見えるかもしれませんが、すでに確立されたものを用いています。担当医の説明をよくお聞きになって下さい。
手術後は部分切除で3日間、全摘出で一週間、食事ができません。この間はつなぎあわせたところを安静にするためです。食事は流動食から始まり、次第に固形食に移行します。胃の機能が低下したり、あるいは完全に失われたりしますので、大なり小なりなんらかの後遺症(胃切除後症候群)があります。食事療法により今までの食習慣をあらためて、お腹をいたわるような食べ方を身につけていただかなければなりません。手術後しばらくたつと胃が大きくなったり、腸が胃になったりするという人がいますが、実際はそんなことはありません。しかし、コツを覚えれば、手術の前のように様々な食ベ物を楽しむことができます。
退院は、順調に経過しますと部分切除で手術後14日、全摘出で18日目です。退院後は外科外来に定期的に通院しますが、かかりつけ医で検査を受ける、もしくは、かかりつけ医と当院の両方にかかるという方法もあります。
施行レジメン一覧
番号 | レジメン番号 | レジメン名 |
---|---|---|
1 | 07050010_4 | ★Tri-weekly PTX (210) (胃がん) |
2 | 07050020_4 | ★Weekly PTX (80) (3投1休) |
3 | 07050040_4 | CPT-11 (150) |
4 | 07050045_4 | ★≪IRIS≫CPT-11 (125) + S-1 |
5 | 07050050_5 | Tri-weekly DOC (60) |
6 | 007050080_9 | ★S-1 / CDDP (2hr) (80/60) (TS-1) (胃がん) |
7 | 07050110_5 | ★S-1 / DOC (80/40) (TS-1) |
8 | 07050120_4 | ★S-1 / Weekly PTX (80/50) (TS-1) |
9 | 07050130_7 | ★CDDP + ハーセプチン (ゼローダ) (80/8→6) (1コース目) |
10 | 07050140_7 | ★CDDP + ハーセプチン (ゼローダ) (80/8→6) (2コース目以降) |
11 | 07050150_6 | ★≪XP≫ゼローダ + CDDP (2000/80) (ゼローダ) |
12 | 07050180_1 | Tri-weekly アブラキサン (260) |
13 | 07050200_2 | ★XELOX (130/2000) (ゼローダ) |
14 | 07050210_3 | ★≪SOX≫S-1 + L-OHP (80/100) (TS-1) |
15 | 07050220_2 | ★サイラムザ + PTX (8/80) |
16 | 07050230_2 | サイラムザ (8) |
17 | 07050250_1 | Weekly アブラキサン (100) (3投1休) |
18 | 07050260_3 | オプジーボ(240) |
19 | 07050270_1 | mFOLFOX6 (インフューザー) |
20 | 07050280_1 | ★ATTRACTION-5 [治験] ONO-4538 + S-1 (360/80) |
臨床試験または治験
番号 | レジメン番号 | レジメン番名 |
---|---|---|
1 | 07050240_1 | [JCOG1509 NAGISA trial]★≪SOX≫S-1 + L-OHP (80-120/130) |
5.術後管理
癌が完全に切除されたように思われても、体のどこかに隠れていて、しばらくすると大きくなってくる場合があります。これを再発といいます。再発は切除したリンパ節より遠いところにあるリンパ節や、肝臓、肺などに転移して起こる場合が多いので、これらを定期的にCTや超音波検査にて監視します。再発の危険は癌の進行度と関連しますが、それは単に大勢の患者さんで統計を調べて多い少ないと言っているだけなので、どの患者さんが再発するかをあらかじめ見分ける方法はありません。ですから、手術を受けた方はみなさん、3年程度は年に3-4回、その後は年に2回程度、検査しています。
再発を防ぐ方法は確実なものはありませんが、抗癌剤には一定の効果があるといわれています。まだその証拠が不十分であるため、当院では一部の方に補助化学療法をお進めするにとどまっています。これに関しては主治医とよくご相談下さい。
胃癌の再発は手術によって治る場合は少ないので、多くの場合化学療法を行います。最近では効果のある薬が普及し、さらに多剤併用療法といっていくつかの抗癌剤を組み合わせることにより副作用を減らし、効果を高めるという方法があるので、効果は高まっています。
6.予後
病期は胃の壁にどれだけ癌が浸潤しているか、リンパ節転移があるかどうか、肝臓など離れた臓器への転移があるかどうかにより6段階に分かれます。2004年版胃癌治療ガイドラインによれば5年生存率(手術を受けた人の中で5年後に生きている人の割合を統計学的手法により算定)は病期IAで93.%、IIで68.3%、IVで16.6%です。
7.胃癌治療における当院の役割
当院では早期癌に対する内視鏡切除を含め、初発癌に対する治療は確立されたものについては最新の方法をいち早く取り入れて治療にあたっています。再発に対しても、肝臓に転移した場合の手術療法、癌による腸閉塞に対するバイパス手術、最新の薬による抗癌剤治療など、全国トップレベルの治療を行っており、地域のみなさんがわざわざ遠くの病院に行かなくてもよいように日々努力しております。
一方で、腹腔鏡手術や再発の場合の未承認薬による化学療法(研究段階のもの)など、未だ評価の定まっていないものは採用していません。これらについてご希望があれば他院を紹介しますので、主治医にお尋ね下さい。