五大がん - 肺がん
1.肺癌とは
1)統計
我が国における肺癌死亡者数は、年間5万6千人(2002年)で、全癌死亡者の約20%を占めています。1993年以降胃癌を抜いて癌死亡率の第1位となっていますが、未だ増加の勢いは止まらず、2015年には年間の新患者数は、14万7千人(男性で11万人、女性で3万7千人)と予想されています。60才以上が好発年齢ですので、高齢者の肺癌が増えてくると考えられます。
2)組織分類
肺癌は、非小細胞癌と小細胞癌に大きく分けられます。
非小細胞肺癌は、腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、腺扁平上皮癌などに分類され、多彩な臨床像を呈します。肺癌の8~9割がこれらのタイプの癌です。
小細胞癌は、進行が早く悪性度の高い癌ですが、抗癌剤や放射線が効きやすい特徴を持っています。
3)治療の概略
肺癌の治療法は、後述する肺癌の組織型や進行度、そして患者の総合的健康状態によって異なります。外科的切除、化学療/法、放射線治療が治療の主体で、それらが組み合わされた治療も行われます。
4)原因
肺癌の原因として、タバコが第1にあげられます。タバコを吸う人はそうでない人の約4.5倍~6倍肺癌に罹りやすく、多く吸う人ほどリスクは高まります。特に喫煙指数(1日の本数×喫煙年数)が600以上の人は要注意です。副流煙による受動喫煙も肺癌のリスクを高めるともいわれています。20%の肺癌はタバコと関係がなく、大気汚染、アスベスト、放射線物質などの関連が指摘されています。
5)検診
肺癌検診には、胸のレントゲン写真、喀痰細胞診があります。50才以上の方、特に喫煙者は、年に一度は検診を受けるようにしましょう。
2.症状
肺癌の一般的は症状として、咳があります。血痰、胸痛、息切れ、喘息様呼吸、繰り返す肺炎、声のかすれ、全身倦怠、食欲不振、体重減少などがあります。肺の中心部に発生した癌では、早期より咳や血痰などの症状が出現しやすく、肺の末梢部に発生した癌では、早期に症状が出にくい傾向にあります。肺癌の症状は風邪などと区別しにくいことも多いので、症状が長引く場合には医療機関の受診をお勧めします。
3.診断
1)喀痰細胞診
咳、痰の症状があるときには、痰の中の癌細胞の有無を顕微鏡検査します。
2)気管支鏡検査
細い内視鏡を口もしくは鼻から挿入し、気管支内腔を観察し組織や細胞を採取します。この検査の時には局所麻酔薬を吸入してから行います。
3)経皮的針生検
X線透視やCTスキャンを見ながら、局所麻酔を注射した箇所から細い針を差し込んで腫瘍に当て組織や細胞を採取します。
4)胸腔鏡下生検
上述の検査で確定診断が得られなかった場合、この方法がとられます。特殊な内視鏡(胸腔鏡と呼ばれる)を胸の小切開創から挿入して肺や胸膜などの組織を採取します。局所麻酔下に行われることもありますが、多くの場合全身麻酔が必要です。
5)リンパ節生検
頸のリンパ節が腫れている場合は、局所麻酔下に針を刺したり、小切開してそのリンパ節を採取したりします。頸より下の気管の周囲のリンパ節が腫れている場合は、全身麻酔下に特殊な内視鏡(縦隔鏡と呼ばれる)を頸の小切開創から挿入してリンパ節を採取します。
6)胸腔穿刺
胸水がたまっている場合、局所麻酔下に細い針を胸から刺してこの水を採取します。
4.病期(ステージ)
1)非小細胞癌は、病巣の広がりの状況で0~Ⅳ期に分類されます。
0期: | 気管支上皮や肺胞上皮の一部に癌が存在する極早期の段階。 |
---|---|
Ⅰa期: | 癌原発巣の大きさが3cm以下で、リンパ節転移を認めない段階。 |
Ⅰb期: | 癌原発巣の大きさが3cmを超え、リンパ節に転移のない段階。 |
Ⅱa期: | 癌原発巣の大きさが3cm以下で、原発巣と同じ肺内のリンパ節に転移を認める段階。 |
Ⅱb期: | 癌原発巣の大きさが3cmを超え、原発巣と同じ肺内のリンパ節に転移を認める段階、 または、原発巣が胸壁に浸潤し、リンパ節転移を認めない段階。 |
Ⅲa期: | 癌が同側の気管や食道周囲のリンパ節(縦隔リンパ節)に転移している段階、 または、原発巣が胸壁に浸潤し、リンパ節転移を認める段階。 |
Ⅲb期: | 癌原発巣が心臓、大血管(大動脈や大静脈)、食道など浸潤したり、胸膜へ転移したり、 原発巣と反対側のリンパ節、または、首の付け根のリンパ節に転移している段階。 |
Ⅳ期: | 癌が他の部位、例えば、脳、骨、肝臓などに転移している段階。 |
2)小細胞癌
小細胞癌では、上述の分類以外に、限局型と進展型に分類する方法も用いられています。
限局型: | 癌が肺および同側のリンパ節にとどまっている段階。 |
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進展型: | 癌が肺の外に広がり、他の臓器への転移が認められる段階。 |
5.治療
肺癌の治療法は、外科療法、化学療法(抗癌剤)、放射線療法の3つが主体となります。癌の種類や進行度そして癌以外の健康状態に基づいて治療法が選択され、時に組み合わせて行われます。
1)外科療法
肺癌が局所に留まっている場合に適応になります。肺を切除する範囲によって、肺部分切除(肺の一部を楔状に小さく切除する)、肺区域切除(肺葉内の区域を切除する)、肺葉切除(右3枚、左2枚ある肺葉のいずれかを切除する)、肺全摘(片側肺をすべて切除する)があります。肺癌原発巣に関与するリンパ節も同時に摘出します。早期の肺癌であれば、より侵襲の少ない胸腔鏡下手術が適応されます。病巣が摘除可能であっても心肺機能障害があると手術できないことがあります。術後の入院期間は10日前後ですが、回復が悪い場合にはさらに長い入院が必要となります。術後、息切れを覚えますが、多くの場合3ヶ月ほどで慣れます。ただ、肺全摘後や肺気腫、肺線維症などの肺障害を持っている場合には、生活のスタイルを変える必要があります。術創の痛みは日に日に良くなりますが、歳月がたっても気候(低気圧や寒冷)によって創部の鈍い痛みを覚えることがあります。
2)放射線療法
高エネルギーの放射線を体の外から患部めがけて照射して癌細胞を破壊する方法です。一般的には1日1回週5日間照射で4~6週間かかります。放射線療法はよく化学療法と組み合わされて行われます。この治療法の副作用は、照射部位の火傷の症状(皮膚炎、食道炎、肺臓炎)と倦怠感、食欲不振、嘔気などの症状があります。肺気腫、間質性肺炎などの背景疾患がある場合には、放射線治療が受けられないことがあります。
3)化学療法
単剤もしくは2種類以上の抗癌剤を静脈注射や内服する治療法です。抗癌剤は血流に乗って全身を巡り、肺のみならず肺の外に転移した癌細胞にも奏功します。抗癌剤のみで肺癌を完治させることは現状ではほとんど不可能ですが、癌巣を小さくしたり、増殖を抑えたり、転移を予防したりする効果が期待できます。抗癌剤は正常細胞をも痛めますので、種々の副作用があり、稀に致命的なこともあります。嘔気、食欲不振、下痢、便秘などの消火器症状、口内炎、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)、末端神経症状(手足のしびれ)、脱毛、腎機能障害、肝機能障害、心機能障害、肺障害などが上げられますが、使用する薬の種類や個々人の感受性によって症状の出方に差があります。吐き気止めの点滴や白血球を増やす注射でこれらの副作用に対処します。脱毛や神経症状は長引き、有効な治療法もありません。他の副作用は2~4週間で回復します。
施行レジメン一覧
番号 | がん種 | レジメン番号 | レジメン名 |
---|---|---|---|
1 | 非小細胞肺がん | 03020010_9 | ≪IP≫ CDDP + CPT-11 (80/60) |
2 | 非小細胞肺がん | 03020020_9 | ≪PV≫CDDP + VNR (80/25) |
3 | 非小細胞肺がん | 03020030_8 | CDDP + VNR (40/20) cRT |
4 | 非小細胞肺がん | 03020040_9 | ≪PG≫ CDDP + GEM (80/1000) |
6 | 非小細胞肺がん | 03020090_7 | ★≪CbP≫Tri-weekly CBDCA + PTX (6/200) |
7 | 非小細胞肺がん | 03020100_7 | ★≪CbwP≫CBDCA + PTX (6/70) |
8 | 非小細胞肺がん | 03020110_7 | ★≪wCbP≫Weekly CBDCA + PTX (2/40)cRT / 前半 |
9 | 非小細胞肺がん | 03020120_7 | ★CBDCA + PTX (5/200) / 後半 |
10 | 非小細胞肺がん | 03020130_7 | ≪CbG≫CBDCA + GEM (5/1000) |
12 | 非小細胞肺がん | 03020170_6 | ≪ICb≫CBDCA + CPT-11 (5/50) / 後半 |
16 | 非小細胞肺がん | 03020220_6 | DOC (60) |
17 | 非小細胞肺がん | 03020230_4 | GEM (1000) |
18 | 非小細胞肺がん | 03020240_3 | VNR (25) |
19 | 非小細胞肺がん | 03020270_4 | AMR (45) (div) |
21 | 非小細胞肺がん | 03020290_9 | ★CDDP + アリムタ (75/500) |
22 | 非小細胞肺がん | 03020300_3 | ★アリムタ (500) |
23 | 非小細胞肺がん | 03020310_8 | CDDP + GEM + BV (80/1000/15) |
24 | 非小細胞肺がん | 03020320_5 | ★Tri-weekly CBDCA + PTX + BV (6/200/15) |
25 | 非小細胞肺がん | 03020330_1 | BV maintenance (15) |
26 | 非小細胞肺がん | 03020340_4 | ★CBDCA + アリムタ (6/500) |
27 | 非小細胞肺がん | 03020350_4 | ★CBDCA + アリムタ + BV (6/500/15) |
28 | 非小細胞肺がん | 03020360_1 | アリムタ + BV maintenance (500/15) |
29 | 非小細胞肺がん | 03020370_1 | ★CBDCA + S-1 (5/80) (TS-1) |
30 | 非小細胞肺がん | 03020380_1 | CBDCA + アブラキサン (6/100) |
31 | 非小細胞肺がん | 03020400_4 | ★CDDP + アリムタ + BV (75/500/7.5) |
32 | 非小細胞肺がん | 03020410_1 | ★アリムタ + BV maintenance (500/7.5) (CDDP後) |
34 | 非小細胞肺がん | 03020480_1 | ★BV + タルセバ (15/150) (タルセバ) |
35 | 非小細胞肺がん | 03020490_1 | Weekly アブラキサン (100) |
36 | 非小細胞肺がん | 03020500_3 | オプジーボ(240) |
37 | 非小細胞肺がん | 03020510_1 | CDGP + DOC (100/60) |
38 | 非小細胞肺がん | 03020520_1 | サイラムザ + DOC (10/60) |
39 | 非小細胞肺がん | 03020530_1 | キイトルーダ (200) |
40 | 非小細胞肺がん | 03020540_1 | テセントリク (1200) |
41 | 非小細胞肺がん | 03020550_1 | イミフィンジ (10) |
42 | 非小細胞肺がん | 03020560_1 | ★Tri-weekly CBDCA + PTX + BV + テセントリク(6/175/15/1200) |
43 | 非小細胞肺がん | 03020570_1 | BV + テセントリク(15/1200) (維持療法) |
44 | 非小細胞肺がん | 03020580_1 | ★CDDP + アリムタ + キイトルーダ (75/500/200) |
45 | 非小細胞肺がん | 03020590_1 | ★CBDCA + アリムタ + キイトルーダ (5/500/200) |
46 | 非小細胞肺がん | 03020600_1 | ★アリムタ + キイトルーダ(500/200) (維持療法) |
47 | 非小細胞肺がん | 03020610_2 | CBDCA + アブラキサン + キイトルーダ (6/100/200) |
48 | 小細胞肺がん | 03030010_9 | ≪IP≫ CDDP + CPT-11 (60/60) |
49 | 小細胞肺がん | 03030020_9 | ≪PE≫CDDP + VP-16 (80/100) / 前半 |
50 | 小細胞肺がん | 03030040_9 | ≪PE≫ CDDP + VP-16 (80/100) |
51 | 小細胞肺がん | 03030070_6 | ≪CbE≫CBDCA + VP-16 (5/100) |
52 | 小細胞肺がん | 03030090_6 | ≪ICb≫CBDCA + CPT-11 (5/50) / 後半 |
53 | 小細胞肺がん | 03030120_2 | ハイカムチン (1) |
54 | 小細胞肺がん | 03030130_4 | AMR (45) (div) |
55 | 小細胞肺がん | 03030140_1 | ★Weekly PTX (80) (6投2休) |
6.進行度別治療法
1)非小細胞癌
Ⅰ~Ⅱ期: | 外科療法の適応です。病理診断の結果によっては、術後化学療法を追加で行うことがあります。外科療法が適応できない場合は放射線療法が適応されます。 |
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Ⅲa期: | 外科療法、放射線療法、化学療法のいずれかを組み合わせた治療が主流です。体力に問題なければ、当院では術前化学療法(+放射線療法)→外科療法→術後化学療法が行われています。 |
Ⅲb~Ⅳ期: | 化学療法や放射線療法、もしくはそれらを併用した治療が行われます。痛みや苦痛に対する緩和療法も同時に行います。 |
2)小細胞癌
限局型: | 化学療法単独、もしくは放射線療法との併用療法が行われます。早期の場合には外科療法も考慮されます。脳転移を予防するために予防的全脳照射を追加することがあります。 |
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7.予後
以下は統計学的数字であり、個々人に当てはまるものではありません。病理所見、進行度、健康状態が深く関与しますので、あくまでも参考としてください。
1)非小細胞癌
5年生存率は、Ⅰ期70%(60~90%)、Ⅱ期50%(40~55%)、Ⅲa期25%(10~30%)です。Ⅲb~Ⅳの2年生存率は5~30%です。
2)小細胞癌
限局型では2年、3年、5年生存率はそれぞれ50、30、25%です。進展型では、3年生存率10%です。